同相会


 中学の同窓会に参加した。自分と同じ学校に進学したクラスメイトはいなかったし、成人式に出ることができなかったので、皆と会うのは10年ぶりだった。


 結婚して子供がいる人もいれば、大企業に勤めて信じられない給料を貰ってる人もいる。
 昔は頭が良くて真面目だったのに、粗暴な身なりになっている者や、逆に素行が悪かったのに小学校の先生になっている者もいた。


 こんなにも変わるものなのか。まあ、中学校からの10年というのは、人の一生の中で最も鮮やかに、艶やかに、狂おしく壮絶に、過渡的に変化する時期だ。
 何があってもおかしくはないか。


 自分はどうだろう。平均より少し上の進学校に進み、平均より少し上の大学に入り、平均より少し上の年収と安定性を持った会社に入った。
 人生にスコアがあるとしたら、きっと平均より少し上の点数になるのだろう。多分この先も、平均より少し上の、高望みはしない人生を歩んでいくはずだ。


「よ、元気にしてた?」


 隣に座った女が話しかけてきた。同窓会なので当たり前だが、同級生のはずである。が、記憶の中にいない。


「んー、ぼちぼち」

 
 とりあえず返事をしたが、やはり覚えがない。こんな奴はいただろうか。
 その女は、髪を派手に染め、爪を伸ばして飾り、如何にも若者という出で立ちだった。
 奇妙なのは、左手の爪だけは短く切られているということだ。


「今でも、ギターは弾いてんの?」
「いいや、高校でやめたよ」
「なんだよもったいないな。ギターの話が出来ると思ってきたのに」


 すいぶん懐かしい話だ。中学の時、確かにギターを弾いていた。が、高校でやめた。
 正確に言えば、大学受験の勉強が本格化したときにだ。当時はギターを弾き続けるか頭を抱えて悩んだが、目の前の好きなことよりも、先のことを考えてのことだ。
 今思えば、きっと無難な選択だったのだろうと、思える。


 そして話を合わせて聞いていると、どうやら彼女はミュージシャンをしているらしいことがわかった。左手の爪がきちんと切られているのは、それが理由だった。


「ライブやってる時とかさ、新曲を仕上げたときの達成感とかさ、堪らないわけよ」
「へー、かっこいいじゃん」


 まーでも、と一言置き、彼女は続ける。


「全然稼ぎはないからバイトもしてんだけどね。いわゆる売れないミュージシャンってやつ」


 ずっとギターを片手に生きてきた彼女には、もうその道しかないのだという。当たり前だ。ギタリストなんて潰しが効く仕事ではない。
 それを聞いて意地の悪い、最低な質問を、この口が放った。


「もしも、タイムマシンみたいなやつで、中学生に戻って全てをやり直せるならどうする?」


 多分、自分より下の存在をみることで、自分の無難な選択を肯定したかったのだ。彼女は少し考え込み、答えた。


「もしも中学生に戻ったなら、今までと同じ選択をし続けるね」
「なんでさ? もったいない」


 普通は、やり直したいことに溢れているだろう。自分だって、やり直したいことはいくらでも思いつく。
 だというのに、そんな答えを出した彼女が不思議だったし、少し腹が立った。彼女は、つづけてこう答えた。


「やり直す程、人生やらかしてないし、後悔もしてない。また同じ道を楽しむよ」


 ただ――、と彼女は付け加えた。


「中学生に戻るかわりにさ。あの時の自分に一言、大丈夫、そのまま進めって、言ってやりたいかな」


 その言葉があれば十分だと、彼女は笑った。
 羨ましい限りだ。そういう人生を、自分も歩みたかった。


「ごめん、名前、なんだっけ?」
「ひどいな、忘れちゃったのかよ。高校までずっと一緒だったのに?」


 は? 何を、あの高校に進学したのは私だけ――。


「はいすいませーん! 宴もたけなわですが!」


 聞き返そうとしたとき、幹事が同窓会の締めを始めた。一瞬気を取られ目をそらし、もういちど彼女のほうを向いたとき、そこには誰もいなかった。




(彼女は――)




 少し気分が悪いので、締めの言葉が終わるのを見計らって先に外に出た。途中、店のカウンターの前を通ると、会計で揉めている様子が目に入った。


「おかしい、こっちは38人しかいないはずだ」
「いえ、注文は39人分承りましたよ? 席も39人分ご用意しました」


 その様子を気にして遠目に伺っていると、仲の良い同級生が私のことを探しに来た。


「ねぇ優子、二次会行くでしょ?」
「ごめん、ちょっと飲みすぎたみたい。今日は先に帰るわ」


 柄にもなく、少し酔った。アルコールにではないと思う。
 ただ、早く帰りたかった。


 あれはどこにしまったっけ。
 まだあるといいのだけれど――。