ラフノート

アウトロレスポール


 八月も半ばを折り返し処暑に入ろうという時期だが、いまだ、その暑さは衰えを知らない。しかし、目的地はいくらか山に寄っているせいか、近づくほどに涼しい風が増えていく。


 退院から五日後、俺と夏希は、春木場彩の墓参りに来ていた。学校にほど近い墓地ということで、部活の前に先に向かうことにしたのだ。


「結構、大きい墓地だな」
「詳しい場所聞いておけばよかったね。もう暑くて嫌」


 なぜ綾人はいないのかというと、今日も相変わらずの遅刻。待つのも面倒なので置いていくことにしようということで、俺も夏希も賛成だった。そろそろ部室には着いてるかも知れない。


 一方、奏は昨日警察から学校に返却されたあの白いレスポールカスタムを詳しく調べたいということで、先に部室に行ってしまった。ギターが大好きな奏らしい。


 てっきり、あの一撃のせいでレスポールカスタムは再起不能になったとばかり思っていたが、当たり所が良かったのか、メイドインアメリカの成せる業なのか、ほぼ無傷で健在だそうだ。
 そして、お互いに慣れているギターを使おうというわけで、白のレスポールカスタムは俺が、パープルハートのストラトは夏希が使うことに決まった。


「そういえば奏太、あんたよく私が防音扉の前にいるって気づいたね」
「あぁ、少しだけ開いてたからな。夏希がいるかどうかはわからなかったから一か八かだったけど」


 夏希が応援を呼ぶために職員室に行ってたら、多分間に合わなかっただろう。少なくとも、奏は無傷じゃ済まなかったし、綾人は死んでいた可能性もある。結果オーライだが、なぜ、あの時逃げなかったのか聞いてみる。


「え?――なんでだろ。ただ、助けなきゃって思った時に、箒を掴んであの部屋の前まで来ちゃったんだよね」


 逃げるよりも、立ち向かうことを自然に選択するあたり、夏希も相当直情型だ。


「それより、Fは克服したの?」
「まだ退院したばっかだし、レスポールも帰ってきたばかりだろ? 許してくれよ」
「ま、そうだけどさ。いつまでも出来ないって訳にはいかないんだからね」


 もちろんだ。そんなんじゃ、初代部長に怒られてしまう。


「あ、でもとりあえずIf noteはパワーコード弾けばいいから大丈夫か」
「その文化祭の選曲なんだけどさ、誰かの曲じゃなくて――、いや、その前にあれだ。バンド名。そろそろ決めようぜ」


 は? と、夏希は苛立ちを顕にしながら返事をする。


「禄にコードも弾けないのにバンド名? なにそれ、寝言?」
「……すいませんでした」
「半分冗談。でも、そのうち考えなきゃね」


 半分は本当なのかよ。俺達はそんなふうに、とりとめのない話をしながら春木場家の墓標を探すが一向に見つからない。


「暑い……、なぁ一度出直して、四人で来た方がいいんじゃないか」
「いや、まずは私達の挨拶が先でしょ? 受け継いだ二本のギターを使うんだから」


 それもそうだが、場所が不明では埒があかない。
 久野木先生に電話しようか迷っている時に、髪の長い男が向こうからこちらに歩いてきているのに気が付く。
 男は、まだ青年のようにも見える顔立ちだが、年齢はわからない。間違いなく成人ではあろうが、齢を判読させない不思議な雰囲気をまとっている。


「あの人、夏希の知り合いか?」


 首を横に振る。そうしているうちに、男が話しかけてくる。


「君達が、彩のギターを受け継いだ人達かい?」


 男の声は若かった。俺達は怖がりながら頷く。思わず頷いたが、彩というのは春木場彩のことでいいのだろうか。いや、だったらなぜこの人は、春木場彩を知っている?


「――そうか、大事に扱ってやってくれ。それと、彩のお墓ならあっちだ」


 男は自分がきた方角を指差し、また足早に歩き始めた。正体を問いただそうとしたとき、俺と夏希のポケットのスマートフォンがまたも間の悪いタイミングで鳴る。それぞれ、奏と綾人からだ。


「悪い奏。今取り込み中だから――」
『奏太さん今すぐ部室に来てください!! 今度はあのレスポールを分解したらまた中から――、とにかく早く来てください!!』