すくう金魚 9


 病院で検査したところ、腫れてはいるものの足は一日の入院で大丈夫なものだった。衰弱した体に点滴を打って、次の日、私は父に肩を貸されながら家に帰ってきた。


 ハナは父が、家の庭に、以前飼っていたベタのとなりに埋めてくれた。久々に帰宅した私は、ハナのお墓に手を合わせ、お参りをする。


「お父さん」
「なんだ?」
「帰ってきたばっかりで悪いんだけど、話があるの」


 リビングで向き合い、改まって切り出す。


「――私。音大に進む。器楽専攻で」
「……それは将来、吹奏楽で食っていく、ということか」
「うん。私、アルトサックスで生きていく。学費はバイトして稼ぐから」


 アインシュタインが提唱した相対性理論を打ち破った金魚のお墨付きだ。二つあった疑問符へ回答を、二つあった選択肢に選択を。我ながら、分の悪い賭けではないと踏んでいる。


「……その必要はない」
「お父さん!」


 一応、反論は想定していた。音楽の道なんて、プロデビューしても安定しない厳しい業界だ。一芸だけで生きていくのは――。


「陽奏が学費を稼ぐ必要はない。俺が全部出す。音大に入るのも難しいし、音大を卒業しても厳しい世界なんだろう? 陽奏はその分、楽器に、音楽に向き合え」


 父は厳しいをしていた。今ならわかる。これは父なりの精一杯の照れ隠しなのだ。私は双眸の雫が溢れるのも構わず、今度はちゃんと、大事に言葉を返す。


「……ありがとう、お父さん……!」


 これは一匹の金魚と、私の物語。
 すくった金魚にすくわれた、家族の物語。