すくう金魚とスイソウの夢


「ねぇ、なんでハルカの部屋には空の水槽がいっぱいあるの?」


 夏休み。私の部屋に遊びに来ている大学の友人がテナーサックスの入った大きなハードケースを床に下ろしながら、本棚や机、タンスの上にある水槽を見て首を横にかしげている。


 その水槽に今は水は入ってなくただの "槽" であり、ただの "空槽" である。透明だったり、薄く青や赤に色のついたガラスの槽には、乾いた水のアカがついていた。


「んー。長いよ、この話。しかも面白くない。笑点の五分の二ぐらいの面白さ」
「なにそれ。逆に気になる」


 この話をするとだいたい不思議ちゃん扱いされる。が、私も今だって、あいつがなんだったのか説明できない。ただあの出来事は事実であり、その証拠として、私は今、こうして息をしているのだ。


「私ね。金魚を飼っていたの」
「金魚? あの赤い金魚?」
「そ。金魚すくいの金魚。あいつは色白だったけど」


 今から三年前。空に打ち上がる綺麗な花火のような――、いや、言い過ぎにして過言か。せめて彼岸花ぐらいにしておこう。
 白地の上に、そんな特徴的な模様を浮かべた金魚を飼っていた。金魚すくいで捕まえてきた、それはそれはとてもとても大層我が儘なやつだった。


「これだけ水槽あるってことは、いっぱい飼ってたの?」
「ううん。一匹だけ」
「え? じゃ、ほかの水槽は?」
「全部そいつの水槽。ていうか別荘」


 これは一匹の金魚と、私の物語。


「その金魚ね。水槽から水槽へ飛ぶの。ジャンプするんじゃなくて、瞬間移動みたいに」


 それは水槽をかける金魚と、私の物語。


***